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落語家は、どのように持ちネタを増やしていくのでしょうか?
アマチュアであれば、好きな落語家の噺をまねて練習するのも良いですが、プロはそういうわけにはいきません。

ある演目を自分の持ちネタにしたいと思えば、そのネタを持っている師匠に稽古をつけてもらい、人前で披露する許可を得なければならないのです。
これがプロの落語家のプロたる由縁でもあります。

この記事では、落語家がどのように落語の稽古をするのかをご紹介します。

師匠や先輩から教わり、許可を得るのが原則

落語家は、教科書や台本を使って落語を覚えるわけではなく、師匠や先輩から教わって覚えていきます。
しかも、自分の師匠や同門の先輩以外に、他の一門の師匠に教わりにいくのも珍しいことではありません。

自分の師匠はただでさえ毎日一緒に過ごして影響を大きく受けるもの。
その師匠からすべての噺を教わるとなると、完全に師匠のコピーになってしまうんですよね。
そこで、他の一門の師匠に教えてもらって来い、となるわけです。

教える方も、同門でないからといって断ったりはしません。
落語界はずっと口伝えで継承されてきたので、それを後代に伝えていく務めを感じているんですね。
また自分も先輩方から教えてもらった恩があるので、後輩にも喜んで教えるのです。

稽古の結果、「これならいいだろう」となると、師匠(あるいは先輩)がその演目を人前で披露することを許可します。
これを業界用語で「あげる」と言うんですね。

プロの落語家は「あげ」てもらって初めて、その演目を自分の持ちネタとすることができるのです。
落語家はどの持ちネタについても、「このネタは○○師匠に教わったもの」と言えます。
出どころがハッキリしている、これがプロなんですね。

昔は「三遍稽古」が主流だった

では落語の稽古は実際どのように行なわれているのでしょうか?

昔から「三遍稽古」と呼ばれる方法が取られてきたようです。
「三遍稽古」とは、文字通り師匠が弟子に同じ噺を3回聴かせて覚えさせるという稽古法。
師匠が演じるのをただただ聴いて覚える。
これを3日間繰り返し、最後に弟子が師匠の前で演じる、というスタイルです。

この方法、教える方も教わる方もなかなか大変そうですね。
そんなわけで、現在では三遍稽古はあまり行なわれていないようです。

よくある方法として、噺そのものは寄席で師匠が演じるのを聴いたり、録音されたものを聴いたりして覚えます。
後日、師匠の目の前で演じてダメ出しをしてもらい、
最終的に無事「あげ」てもらえれば、自分の持ちネタとできるんですね。

噺を教わる際のマナー

噺はタダで教えてもらうことができますが、その分マナーは守らなければなりません。
たとえば先輩に噺を教わりに行くときは普通、お礼の品を持って行くのがマナーです。
その人が大切に育ててきた我が子のような噺を教わるのですから当然ですね。

また、その人が専売特許のようにしている噺を「教えてください」と頼むのはマナー違反だそう。

さらに、噺を「あげ」てもらった後でも、教えてくれた人がいる前ではその噺は避けるのが普通です。

もちろん落語家同士にもいろいろな人間関係がありますから、このようなマナーは厳格なルールというよりも一般的なマナーに過ぎないでしょう。
落語家の本やツイッターを見ていると、「○○が噺を教えるお礼にこんなものを持ってきた」など面白いエピソードが見られることもありますよ^^

たとえば柳家花緑師匠は自著のなかで、
「ある後輩に稽古をつけたら、お礼の品としてセールで買ってきたMD5枚組を持ってきた」と書いていました。
しかも教えたのは「紺屋高尾」という大きなネタ。
お礼の品はあくまで気持ちですが、これではあまりに割に合いません(^m^)

まとめ

噺の稽古は、落語が脈々と受け継がれていく上で欠かすことができません。
そうした落語の継承は、プロとアマチュアをはっきり隔てるものともなってきました。

通になってくると「この噺はどの師匠からもらった噺かな」などと分析するようになる人も。
それほど、噺の出どころって大切なんですね。