お運びをいただきまして、厚く御礼申し上げます。
ここまで寄席の全体的な流れを見てきましたが、ここからは落語家が寄席でどんな演目を高座に掛けるのか、ご説明していきたいと思います。
寄席では普通、どの演目を演るかはあらかじめ発表されていません。
その場で落語家がいろんな要素を考慮しながら出し物を選んでいるわけです。
この記事では、落語家がどんな考え方で噺を選んでいるのか、お伝えしましょう。
それではまいります!
同じ噺は避ける
まず大前提として、
同じ日に同じ噺は演らない
という鉄則があります。
ですから、寄席に遊びに行けば、一日じゅう居たとしても同じ噺を2度聴くことはないんですね。
落語家は高座に上がる前に必ず、ネタ帳というものを見ます。
ネタ帳にはその日、誰がどの噺を演ったかということが記録されています。
それを見ながら、「じゃあ今日はこの噺をしよう」などと考えるわけですね。
考えてみれば、これってすごいことですね。
たとえば末広亭について考えてみましょう。
末広亭には昼夜の入替えがありません。
昼席の最初から夜席のトリまで全部楽しもう、なんて猛者もいらっしゃるわけです。
ですから落語家は、すでに出ているすべての演目をチェックして噺を決めなくてはなりません。
夜席のトリともなりますと、その日に上がっている20人以上のした噺を避けて、お客さんを満足させられるネタを演らなければならないのです。
やはりトリというのは、実力がないとできないということですなぁ。
というわけで、寄席の番組中に同じ噺をやらないのが原則なんですが、私が寄席に行ったある日、事件が起きました。
なんと夜席のトリが、その夜席ですでに1度演じられた噺を掛けたのです!
実はそれはしくじりではなく、あえてそうしたということが後でわかったのですが。
同じ噺だと分かった瞬間は、
客席は明らかにどよめきました( ゚Д゚)
それだけ、1日で同じ噺が掛かることはないということが常識になっているんですね。
結果としてこの師匠の「あえての同じ演目作戦(?)」は大成功でした。
その模様は、こちらの記事でご覧いただけます。
同ジャンルの噺も避ける
さて、寄席では同じ演目を掛けないだけでなく、同じジャンルの噺も避けることになっています。
同じようなテーマや要素を含む噺を、「ネタがつく」と言うんですが、落語家はみな、ネタがつかないように演目を選んでいます。
客席を飽きさせないための努力をしてくれているということですね。嬉しいことです。
たとえば落語には、子どもが出てくる噺、泥棒の噺、長屋が舞台の噺などのジャンルがあり、落語家は同じような登場人物や設定の噺を避けるわけです。
もっとも、噺にはいくつものテーマが含まれている事も多いので、厳密に避けるのは不可能でしょう。
私が寄席に行ったある日には、二人の落語家がオリジナルの新作落語を演じたのですが、どちらの噺にも自転車が出てくる場面があり、「ネタがついた(-_-)」と落ち込んでいました。
まぁこの場合は新作ですし、ほぼ冗談で言っているんでしょうけどね(^m^)
季節や客席の様子によって決める
落語には、それぞれの季節にあった演目もございます。
お正月には初詣の噺、春にはお花見の噺、秋にはさんまの噺、といった具合です。
年末になるとよく演じられる噺もいくつかありますが、『芝浜』が有名ですなぁ。
しかし私が寄席に行ったある日、4月にもかかわらず『芝浜』が掛かりました!
やはり、
客席は明らかにどよめきました( ゚Д゚)
春なのに年末を思わせるネタという驚きと、ここで『芝浜』が聴けるのかという喜びで、客席の空気が一変したのです。
こういうところも、寄席ならではの楽しみですね。
そして落語家は、客席の様子もよく見ているようです。
すでに高座を終えた師匠からお客さんの反応を聞いて、
「今日のお客さんはノリが良いから得意の滑稽噺で行こう」とか、
「今日はあまりウケが良くないから、ちょっと落ち着いた噺にしよう」などと考えたりするそうです。
また、色っぽい噺をしようと思っていても、客席に子どもがいるのを見て変えたり(あるいはあえて変えなかったり笑)するそうです。
噺の長さを考慮する
上記の要素を考えた上で、あとはその時の気分で決めていくわけですが、寄席というのは通常、持ち時間が15分ほどしかありません。
ですからできるネタも限られてきます。
もっとも、トリだけは持ち時間が30分ほどあるので、長めの噺ができるわけです。
とはいえ中には、長い噺を短くまとめて(「寄席サイズ」と言います)演じたり、逆に前座がするような短い噺を肉付けして、トリで演じたりすることもあり、これも寄席の醍醐味です。
落語家たちは寄席を修行の場とも考えているようで、持ちネタを磨き上げていく貴重な機会となっているようですね。
まとめ
落語家がネタ選びをする時に考慮する要素を考えてきました。
(細かい事を言えば他にもいろいろとあるのですが、大まかにはこんなところでしょう。)
寄席に出るには、たくさんの持ちネタが必要なんですね。
しかし、新作落語に関しては、噺がオリジナルであり基本的にその人しか演らないので、あまりネタ帳を気にせずに高座に掛けられます。
ちなみにあるベテランの師匠は、
いつ行っても同じ新作落語しか演りません。
でも、何回聴いても楽しいから、それはそれでいいんです(´艸`*)
今後は、具体的な演目やジャンルについてもご紹介していきたいと思います。